『あんぱんまん』が教えてくれたこと―神話的考察

アニメ「それいけ!アンパンマン」の原作、やなせたかしさんの絵本『あんぱんまん』の神話的考察。

(13) 「まえよりも ふっくらと」―与え続けるために

「よおし、こんどは 

もっと おおきい ぱんに して

もっと おいしい あんこを 

いっぱい いれておいたよ。

さあ、できた。」

あんぱんまんは まえよりも

ふっくらとした かおに なりました。

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やなせたかし『あんぱんまん』フレーベル館 1976年

 

ぱんつくりのおじさんは、焼きあがったパンを、

あんぱんまんの体の上に置きます。

そのときの、あんぱんまんの顔の嬉しそうなこと!

おじさんの表情も幸せに満ちています。

 

あんぱんまんは、なぜ与え続けられるのか。

全ての答えは、このあんぱんまんの笑顔が物語っています。

結局のところ、あんぱんまんにとって、

おじさんに新しい顔を作ってもらうことが、

この上ない喜びなのです。

 

おじさんが生地をこねているときに聞こえる歌。

こねられながら感じるおじさんの優しくて力強い手。

焼き上がった顔を両手で優しく肩にのせてもらうときの感じ。

そのときに見えるおじさんのくしゃくしゃの笑顔。

 

おじさんと過ごす、この時間、この瞬間こそが、

あんぱんまんが飛び続ける原動力になっています。

 

あんぱんまんには、飢えた人を救うという使命があります。

しかし、使命感だけで与え続けることはできません。

その使命感を支えているのは、おじさんから惜しみなく注がれる愛情です。

あんぱんまんは、新しい顔を受け取るという行為をとおして、

おじさんの愛情を確かめ、ふたりの関係を日々、新しくしているのです。

 

人は、与えるほどに豊かになっていきます。

しかし、その豊かさを真に意味深いものにするのは、

その土台にある、人格同士の結び付きなのです。

 

 

受け取ることを重ねることで、つながりは深く確かなものとなっていく。