『あんぱんまん』が教えてくれたこと―神話的考察

アニメ「それいけ!アンパンマン」の原作、やなせたかしさんの絵本『あんぱんまん』の神話的考察。

(12) 「ぱんつくりの おじさん」―造物主

ぱんつくりの おじさんは、 

ぱんやきの めいじんです。

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 やなせたかし『あんぱんまん』フレーベル館 1976年

 

 

今回は、この物語の最後の登場人物、

後にジャムおじさんと呼ばれる、

ぱんつくりのおじさんの話です。

 

異世界=パン工場に住むこのおじさんは、

登場人物の中で唯一、「つくる」ことのできる存在です。

彼は、あんぱんまんの世界におけるクリエイター、「造物主」です。

あんぱんまんの命は、このおじさんの手によって

生み出されていたのでした。

 

ところで、このおじさんとあんぱんまん、

顔がそっくりなのです。

まるい顔に、まるい鼻に、まるいほっぺた。

あんぱんまんに、髪の毛と眉毛とひげをつけて、

帽子をかぶせてみたら、本当に同じ顔!

 

もちろん、おじさんはあんぱんまんの生みの親。

ふたりは親子みたいなものですから、

似ていて当然といえば当然です。

 しかし、ふたりの顔が同じということには、

もう少し深い、確かな意味があるように思うのです。

 

前の話で、顔はその人の人格、アイデンティティーを表す、

ということに触れました。

であるならば、顔が同じということは、

人格もまた同じということになります。

 

ぱんつくりのおじさんとあんぱんまんは、

親子であると同時に、一つの存在なのです。

 

おじさんは命を生み出し、あんぱんまんはそれを人間の世界に届けます。

ふるまいは異なりますが、二人の思いは同じです。

それは飢えた人にパンを届けること。

生命の流れの途絶えた人に、新しい命を流すことです。

 

あんぱんまんが与えた愛は、

ぱんつくりのおじさんが与えた愛なのです。

顔のないあんぱんまんを迎えるおじさんの笑顔が、

二人の思いが同じであることを力強く物語っています。

 

 

ぱんつくりのおじさんとあんぱんまんは、一つの存在。