『あんぱんまん』が教えてくれたこと―神話的考察

アニメ「それいけ!アンパンマン」の原作、やなせたかしさんの絵本『あんぱんまん』の神話的考察。

(11) 「あたらしい かおを つくってあげるよ」 ―受け取るということ

ぱんつくりの おじさんは、

かおの ない あんぱんまんを みると、

にこにこしながら

「よしよし、また あたらしい かおを 

つくってあげるよ。」

と いいました 

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やなせたかし『あんぱんまん』フレーベル館 1976年

 

神話において洞穴とかトンネルとかを抜けた先というのは

異世界と相場が決まっています。

さて、あんぱんまんの落ちた煙突の先はパン工場でした。

いよいよ、あんぱんまんの秘密が明らかにされます。

 

パン工場では、あんぱんまんによく似た顔のおじさんが

待っていました。

おじさんは嬉しそうに、あんぱんまんのために

あたらしい顔をつくることを伝えます。

顔のないあんぱんまんは、一言も口にせず、

ただ黙って調理台の上に座っています。

 

これまで全てを惜しみなく与えてきたあんぱんまんは、

ここでは、ただ受け取るだけの存在です。

与えるためには、まず受け取らなければなりません。

誰かを愛するためには、

まず自分が愛されていることを知らなければならないのです。

 

受け取るというのは、実は、とても難しいことです。

自分にはそれを生み出す力がない、ということを認めなければならないから。

そして、受け取ったものが究極的には自分のものではないことを、

認めなければならないからです。

 

お金、時間、才能、つながり。

自分の「所有」しているものを、

自分への「贈り物」として受け取りなおしてみる。

すると、それは自分を満たしてくれると同時に、

やがて誰かに「贈られていく物」と変わっていきます。

 

与えるためには、まず受け取らなければならない。