『あんぱんまん』が教えてくれたこと―神話的考察

アニメ「それいけ!アンパンマン」の原作、やなせたかしさんの絵本『あんぱんまん』の神話的考察。

(6) 「きれいな ちょうを おいかけているうちに」

きれいな ちょうを

おいかけているうちに

みちに まよってしまったのです。

 

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 やなせたかし『あんぱんまん』フレーベル館 1976年

 

この物語で、私たちの存在を映すもう一人の登場人物が

まいごになった子どもです。

 

旅人と同じように、この子どもも一人ぼっちでお腹をすかせています。

そして、ここでは子どもが道に迷ってしまった理由が語られています。

彼は、蝶を追いかけているうちに道に迷ってしまったのでした。

 

蝶は美しいものの象徴。

そして、子どもの手には網が握られています。

子どもはただ蝶を追いかけていただけではなく、

捕まえて自分のものにしようとしていたようです。

この網は、所有欲を示しています。

 

捕えられた蝶はもう自由に飛ぶことはできません。

蝶を所有するということは、蝶を殺すということなのです。

 

 人は生きるために、他の命を食べなければならないという

「おそろしさ」を抱えていますが、

自分の欲のためだけに、他の命を奪ってしまうという、

別の「おそろしさ」を抱えています。

さらに、純真無垢な子どもにその「おそろしさ」が表れていることに、

所有欲の根深さがあります。

 

そして、蝶を追いかけていた子どもが道を失ったように、

所有することを求めていると、自分を失ってしまうのです。

 

与えるあんぱんまんと、所有する子ども。

ふたつの生き方が、ここにさりげなく対比されています。

  

所有を求めていると、自分を失う。