(6) 「きれいな ちょうを おいかけているうちに」
きれいな ちょうを
おいかけているうちに
みちに まよってしまったのです。
この物語で、私たちの存在を映すもう一人の登場人物が
まいごになった子どもです。
旅人と同じように、この子どもも一人ぼっちでお腹をすかせています。
そして、ここでは子どもが道に迷ってしまった理由が語られています。
彼は、蝶を追いかけているうちに道に迷ってしまったのでした。
蝶は美しいものの象徴。
そして、子どもの手には網が握られています。
子どもはただ蝶を追いかけていただけではなく、
捕まえて自分のものにしようとしていたようです。
この網は、所有欲を示しています。
捕えられた蝶はもう自由に飛ぶことはできません。
蝶を所有するということは、蝶を殺すということなのです。
人は生きるために、他の命を食べなければならないという
「おそろしさ」を抱えていますが、
自分の欲のためだけに、他の命を奪ってしまうという、
別の「おそろしさ」を抱えています。
さらに、純真無垢な子どもにその「おそろしさ」が表れていることに、
所有欲の根深さがあります。
そして、蝶を追いかけていた子どもが道を失ったように、
所有することを求めていると、自分を失ってしまうのです。
与えるあんぱんまんと、所有する子ども。
ふたつの生き方が、ここにさりげなく対比されています。
所有を求めていると、自分を失う。