(3) 「ちょっとだけじゃなくて たくさん たべました」
そして、
ちょっとだけじゃなくて
たくさん たべました
「ちょっとだけ」と言いながら、顔の半分までを食べてしまう旅人。
あんぱんまんは、そんなこと最初からわかっていたという風に、
笑顔で自分の頭を差し出し続けます。
両手と両膝を地面につけて。
両手と両膝をつくという行為は、相手への降伏、
または相手への最大限の敬意を表します。
なぜ、あんぱんまんはこのような姿勢をとったのか。
与えるという行為は、奪うのとは違った仕方で相手を傷つけます。
与えられた人の心には、感謝とともに、劣等感を生じさせます。
場合によっては、その人は生涯その劣等感を引きずって生きていかなければ
ならないでしょう。
だからこそ、与えるときには、細心の注意を払う必要があるのです。
「君は劣った存在なんかじゃない、最高に尊い存在だ」という
メッセージを同時に送ることが、与えるときには不可欠なのです。
与えるときの作法といってもいいでしょう。
もし、あんぱんまんの顔ではなく、手や足があんぱんでできていたら、
どうだったでしょう。
相手が自分の身体を食べている間、あんぱんまんは相手を見下すことになります。
しかし、顔を食べさせるには、相手よりも低くならなくてはいけない。
まさに、あんぱんまんは与えるために生まれてきた存在なのです。
相手に最大限の敬意を払うことが、与えるときの作法。