『あんぱんまん』が教えてくれたこと―神話的考察

アニメ「それいけ!アンパンマン」の原作、やなせたかしさんの絵本『あんぱんまん』の神話的考察。

(3) 「ちょっとだけじゃなくて たくさん たべました」

そして、

ちょっとだけじゃなくて

たくさん たべました

 

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  やなせたかし『あんぱんまん』フレーベル館 1976年

 

 

「ちょっとだけ」と言いながら、顔の半分までを食べてしまう旅人。

 あんぱんまんは、そんなこと最初からわかっていたという風に、

笑顔で自分の頭を差し出し続けます。

両手と両膝を地面につけて。

 

両手と両膝をつくという行為は、相手への降伏、

または相手への最大限の敬意を表します。

なぜ、あんぱんまんはこのような姿勢をとったのか。

 

与えるという行為は、奪うのとは違った仕方で相手を傷つけます。

与えられた人の心には、感謝とともに、劣等感を生じさせます。

場合によっては、その人は生涯その劣等感を引きずって生きていかなければ

ならないでしょう。

 

だからこそ、与えるときには、細心の注意を払う必要があるのです。

「君は劣った存在なんかじゃない、最高に尊い存在だ」という

メッセージを同時に送ることが、与えるときには不可欠なのです。

与えるときの作法といってもいいでしょう。

 

もし、あんぱんまんの顔ではなく、手や足があんぱんでできていたら、

どうだったでしょう。

相手が自分の身体を食べている間、あんぱんまんは相手を見下すことになります。

しかし、顔を食べさせるには、相手よりも低くならなくてはいけない。

まさに、あんぱんまんは与えるために生まれてきた存在なのです。

 

相手に最大限の敬意を払うことが、与えるときの作法。